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ここではウィリアム・フォークナーの短篇 "Barn Burning" の翻訳をやっています。
1939年に発表されたこの作品は、フォークナーの短篇でも評価の高いもののひとつで、後期三部作の最初の作品『村』の最初の方でもこの出来事は出てきます。父親として登場するアブナー・スノープスは、南北戦争のさなかを舞台にした『征服されざる者』のなかで、馬泥棒として登場する人物。その約三十年後、この物語は始まります。
主人公の少年サーティは、フォークナーの作品のなかではこれまたおなじみのサートリス大佐の名前をもらったカーネル・サートリス・スノープス。おとなへの鳥羽口に立った彼は、貧しさの問題、白人と黒人の問題に直面し、同時に血の絆と社会の一員として生きることのあいだに引き裂かれることになります。
原文は http://www.rajuabju.com/literature/barnburning.htm で読むことができます。



納屋は燃える


by ウィリアム・フォークナー


焚き火


 治安判事裁判が開かれている店は、チーズのにおいがした。混み合った店の奥で、少年は樽の上であぐらをかいていたが、このにおいがチーズだということは、すぐにわかった。

においはそれだけではない。彼の坐っているところから、ずんぐりと平たい、重たそうなブリキの缶詰が見えて、そのラベルを胃袋で読んだ。彼には意味を結ばない文字ではなく、真っ赤な悪魔と銀色に弧を描く魚の絵で。鼻で嗅ぐチーズと、はらわたで感じる缶詰の魚のにおいが、それ以前から絶えず感じていたにおいの合間に、ときおり突風のように押し寄せてくる。前からのにおいというのは、失望と悲しみのにおい、いくばくかの恐怖と、もっと古くからなじみの、血の気がさあっと引くような感覚が入り交じったにおいだった。

少年はテーブルに目をやることができないでいた。そこには判事が坐っていて、その前に少年の父親と、父親の敵(おれたちの敵だ、と絶望的な気持ちでそう思った。おれたちのだ! おれとあの人の両方にとって敵なんだ! あの人が、あそこにいるのがおれの父さんなんだ!)が立っていた。彼の耳には話し声が聞こえていた。そこにいるふたりが話していたのだが、父親はまだ何も言っていなかった。

「だが、その証拠はあるのかね、ミスター・ハリス?」

「さっき申し上げましたじゃねえですか。豚がわしのトウモロコシ畑に入ってきたもんだから、わしはそいつをつかまえて、この男のところへ戻してやったですよ。この男は豚を閉じこめておく柵を作ってねえ。だからそう言ってやった、注意してやったんだ。つぎに逃げてきたときは、わしはその豚をうちの囲いのなかに入れといてやりました。

この男が豚を連れに来たとき、わしは囲いを十分修理できるぐらい、針金をたっぷりやったんです。そのあとでまた豚が来たから、今度もわしはそいつをつかまえておきました。馬でやつの家に行ってみたら、わしがやった針金がまだ巻いたまんま、庭に転がしてあるじゃねえですか。

わしはやつに言ってやりましたよ。預かり賃を1ドル払ったら、返してやるって。その晩、黒んぼがひとり、1ドル持ってやってきて、豚を連れて帰りました。見たことのねえ黒んぼでした。そいつが言うんです。『あの人が伝えろって言うた。あんたのところの薪や干し草やなんかが焼けることになるぞ、って』。だからわしは『なんだって?』って聞いたんだ。『あんたに伝えるようにあの人が言うたんだよ』って黒んぼが言うんです。『薪や干し草やなんかが焼けることになる』って。その晩です。うちの納屋が燃えた。なかのものは全部運びだしましたが、納屋は丸焼けになったですよ」

「その黒んぼはどこにいる? あんたはそいつを捕まえたのかね?」

「見たことのねえ黒んぼだったって言ったでしょうが。そいつがどうしたかなんてわしは知らねえです」

「だがそれでは証拠とは言えんよ。証拠というには無理があるとあんたも思わんかね?」

「あの坊主をここへ呼んでくだせえ。やつだったら知ってるはずです」
しばらくのあいだ他の人びとと同様、少年も男が言っているのは自分の兄のことだと思っていたが、ハリスは続けた。「いや、そいつじゃねえです。ちっこいほうの。あの子だ」

あぐらをかいていた少年は、年の割に小柄な、父親そっくりの痩せてひきしまった体つきをしていた。つぎの当たった、小柄な体にさえ小さすぎる色あせたジーンズをはき、まっすぐな茶色い髪には櫛を入れたあともなく、吹きすさぶ嵐にも似た灰色の荒々しい瞳をしている。彼は人びとが両脇に分かれて、テーブルまでの道を開け、厳しい顔の人垣を作っていることに気がついた。

正面奥に判事がいる。古ぼけた服にカラーもつけず、白髪混じりの頭で眼鏡をかけた判事は、少年を手招きした。剥き出しの足が床を踏む感触はないのに、自分に向けられた厳しい表情が重くのしかかってくるのがはっきりと感じられる。そんななかを少年は歩いた。父親は黒い一張羅を着込んでしゃちほこばっているが、それも裁判のためではなく、引っ越しのためだ。息子の方をちらりとも見ない。父さんはおれに嘘をつかせるつもりなんだ。気も狂いそうな悲しみと落胆がまた押し寄せてくる。だから、おれはそうしなきゃ。

「坊や、君の名前は何だね?」判事が言った。

「カーネル・サートリス・スノープス」少年はささやくように言った。(※カーネルは「大佐」の意で、サートリス大佐は地元の名士である)

「なんだって?」判事は聞き返した。「もっと大きな声で言ってくれんかね。カーネル・サートリスだって? この町でサートリス大佐の名前をもらった人間は、ほんとうのことを証言しないはずはないと思うのだが、どうかね?」

少年は何も答えなかった。こいつらはみんな敵だ! 敵なんだ! という思いでいっぱいだった。しばらくは、はっきり見ることもできなかったので、判事の顔に優しそうな色が浮かんでいることにも気づかなかったし、判事がハリスに「わしにこの子を尋問しろというのかね?」と困惑した声でたずねているのも聞いていなかった。

そのあとの、いやに長い数秒のあいだに少年の耳もまた聞こえるようになった。だが、聞こえているのは人でいっぱいの小さな部屋は物音ひとつせず、押し黙った人びとのはりつめた息の音だけだった。ちょうど彼が深い谷底の上でブドウのつるの先端にぶらさがって揺れていたら、一番高く振れた瞬間が永遠に凍りついてしまい、重力さえもが麻痺してしまって重さもまったく感じられなくなったようだった。

「できねえよ!」ハリスは乱暴な、感情を爆発させたような声を出した。「ええい、くそっ! あの子をここから出してやってくだせえ!」

その瞬間、時間と移り変わる世界はたちまち彼の足の下に戻り、チーズと缶詰の魚、あるいは恐れや絶望や昔からの血の悲しみのにおいをついて、人びとの声が彼の耳元に届いた。

「本件はこれにて終了。あんたを有罪とする理由は認められんよ、スノープス、だがな、忠告をしておく。この土地を離れるんだ。戻ってきちゃならん」

 少年の父親はそのとき初めて口を開いた。冷たく険しいが平板で抑揚のない声だった。「そのつもりだ。ここにとどまるつもりはない、こんな……」それから何か活字にできないような忌まわしい言葉をだれに言うともなく吐いた。

「よかろう」判事はそう言った。「自分の馬車で暗くなる前にここから出ていくことだ。訴えを却下する」

 父親はくるりと背を向けると、ごわごわした黒いコートを先に押し立てるようにして歩きだした。歩こうとすると痩せた体がぎくしゃくとかしぐのは、三十年前、馬を盗んで逃げていく彼のかかとに南軍の憲兵が撃ったマスケット銃の弾が当たったせいだった。少年はいつのまにか二つに増えた背中のあとについていく。兄が人混みのなかから現れたのだ。父親ほど背は高くなかったが、もっとがっしりしていて、ひっきりなしに噛みタバコをかんでいるのだ。厳しい表情の人びとのあいだを通って店の外へ出て、すりへったポーチを抜けて、たわんだ階段を下り、犬や大人になりかけの少年たちが集まっている暖かで埃っぽい五月の空の下に立った。少年が通り過ぎようとしたとき、押し殺した声が聞こえた。

「放火魔!」

 ふたたび視野を失った少年は振り向いた。赤みがかったもやのなかに、顔がひとつ、月のような、満月よりもさらに大きな顔が浮かんでいる。その顔のもちぬしは、少年より体半分大きかったが、うっすらと赤いもやの向こうの顔に飛びかかっていった。殴られた感覚も衝撃もないまま、頭が地面にたたきつけられ、這い上がってまた飛びかかる。今度も殴られた感触はなく、口のなかに血の味も感じないまま、また這い上がって見ると、相手の少年は一目散に逃げていくところだった。跳び上がって追いかけようとしたとき、父親の手がぐいと引き戻し、険しい、暖かみのまったくない声が頭の上から聞こえた。「行って荷馬車に乗るんだ」

 荷馬車は道の向こうのニセアカシアと桑の茂みに停めてあった。そろって図体の大きなふたりの姉が晴れ着に身を包み、更紗の服を着てつばの広い帽子をかぶった母親と、母親の妹と一緒に乗っている。女たちは、少年の記憶にあるだけでも十数度にも及ぶ引っ越しにも耐えてきた、さまざまながらくたにはさまって坐っていた。おんぼろのストーブ、壊れたベッドや椅子、真珠貝がはめこまれた時計、もはや動いていない、二時十四分あたりで止まったまま、日も時も告げることを忘れた時計は、元は母親の嫁入り道具だった。母は泣いていたが、少年の姿を見ると袖口で顔をこすり、荷馬車を降りようとした。

「戻れ」父親が言った。

「この子、けがをしてるじゃないか。水を取ってくるよ、洗ってやらなきゃ……」

「荷馬車に戻るんだ」父は言い、少年も荷馬車の後ろから乗り込んだ。父親は、兄がすでに坐っていた御者台に上ると、やせた二頭のラバそれぞれに、皮をはいだ柳の枝で作ったムチをふりおろした。乱暴だが、熱のこもらない手つきである。虐待を楽しんでいるのではなかった。ちょうど、もう何年か何十年かして、彼の子孫たちが車を動かす前に、エンジンの空ぶかしをするのと同じようなもので、ムチをくれるのも手綱を引くのも、ひとつづきの動作なのだった。

荷馬車は進んでいき、厳しい表情の人びとが黙ったまま見送っている店も、背後に遠ざかり、カーブを曲がると、もはや見えなくなってしまった。もうすっかり、と少年は考えた。たぶん、もう満足したんだ。だからもう……少年は独り言をいう声が自分にさえ聞こえないように口をつぐんだ。母親の手が肩に触れた。

「痛かないかい?」

「いや。痛かねえ。ほっといてくれよ」

「乾いちまう前に、血をお拭き」

「夜、洗うからいい。ほっといてくれったら」

 荷馬車は進んだ。少年には自分たちがどこに向かっているのかわからなかった。誰ひとりとしてそれを知らなかったし、聞く者もなかった。というのも、これまで一日か二日、ときには三日進んでいくと、かならずどこかにはついたし、かならずそこには家のようなものが待ちかまえていたからである。おそらくあらかじめ別の農場で収穫を手伝う契約をしてから、それから父親は……。また彼はそこでやめなければならなかった。あいつはいつもそうなんだ。確かに父親のオオカミのような独立心は見事なものだったし、勇気だってあった。少なくとも、まだ利害がはっきりとしていないあいだは、彼のことをよく知らない人びとはそういう印象を持ったのだ。彼の内側に潜む貪欲で残忍な面が、信頼できるものとして映ったというより、自分の行動を正しいと暴力的なまでに思いこんでいるところが、利益を同じくする人びとにとっては、頼もしく感じられたのだろう。

 その晩、一家はカシとブナの林にキャンプを張ることにしたが、そこにはもう春が来ていた。夜はまだ寒かったので、近くの柵から横木を引き抜き、適当な長さに切って火を焚いた――小さな火が上がった。こぢんまりと、しみったれたといってもいいような、だが抜け目ない、しっかりとした火だった。こうした火は父親の好みで、いつもそう、たとえ凍えるような天候のときでもそうなのだった。もし少年がもっと大きかったなら、どうしてもっと大きい火を焚かないのか、いぶかしく思い、そう尋ねてみたかもしれない。戦争での無駄や散財を見てきたばかりか、生まれつき、自分のものだけでなく、ありとあらゆるものを散々に浪費しつくすようなたちなのに、どうして手当たり次第、目につくものなら何でも燃やしてしまわないのだろう?

 さらにもう一歩踏み込んで、理由をこう考えたかもしれない。このしみったれた炎は、あの四年間、あらゆる人びとから――南軍からも北軍からも――逃れ、つないだ数頭の馬たち(父親はそれを馬質と呼んでいた)と森のなかで過ごした毎夜の生きた成果なのだろう、と。もっと大人になっていれば、ほんとうの理由も察知したかもしれなかった。火という要素は、父親の生命を動かしている主要な動力なのだ――ちょうど他の人びとにとって鉄や火薬がそれにあたるように、本来のあり方を保っていくための、たったひとつの武器、それがなければ息をする値打ちもなく、それがあるゆえに敬意と分別をもって扱われる。それが火なのだろう、と。

 だが、そのとき少年が考えていたのはそんなことではなかったし、彼が生まれてこのかた見てきたのはずっと同じ、しみったれた火だった。彼はその火のかたわらで黙って夕飯を食べ、鉄の皿を抱えたまま、眠りかけていた。そのとき父親が彼を呼んだので、すぐにこわばった背中のあとについていった。父親はぎくしゃくと無慈悲に足をひきずりながら、丘の斜面を登り、星明かりの道までやってきた。そこで振り向いたので、星を背にした父親の姿は見えたが、表情まではわからない。のっぺりと黒い姿は、ひらべったく血も通ってないようで、まるで鉄のフロックコートを切り抜いたように見えた。父親の声はブリキのようにしわがれていて、ブリキのように熱がこもっていなかった。

「てめえはやつらにしゃべろうと思っていただろう。あいつにしゃべっちまおうとしてたんだろう」

少年は返事をしなかった。父親は平手で彼の横っ面を張った。当たりはきつかったが、ほとんど熱が感じられない張り手だった。ちょうど店で二頭のラバを打ったときとまったく同じ、棒を使わずにアブを叩き殺すためにひっぱたくのとまったく同じだ。声にも、怒りの響きも熱もなかった。

「てめえはな、大人になろうとしてるんだ。だからそろそろ覚えなきゃな。てめえの血はてめえで守るんだ。さもなきゃ、てめえの血にしっかりとしがみついとくんだ、さもなきゃおまえがしがみつけるような血はどこにもなくなっちまうぞ。今朝あそこにいた誰かが、てめえの見方になってくれるとでも思ってるのか、ええ? 連中が望んでいるのは、おれを捕まえるチャンスだけだ。おれが連中をのしちまったからな。だろ?」

やがて二十年が過ぎ、彼はこう独り言を言うことになる。「もしおれが、あの人たちはただ真実と正義を求めていただけだったと言ったとしたら、おれをもう一度殴ったことだろう」だがいまの彼は何も言わなかった。泣きもしなかった。ただそこに立ったままでいた。

「何とか言ってみろよ」父親が言った。

「はい」少年は小さな声で言った。父親は向こうを向いた。

「もう寝ろ。明日はあそこへ行くんだから」

 次の日、一家はそこにやってきた。午後のまだ早い時間に荷馬車が停まったのは、ペンキの塗っていない二間きりの家で、これまでの十年間に少年が過ごした十数軒の家とうりふたつだった。そこからまた、これまでの十数回と同じように、母親と叔母さんは荷馬車から降りると、荷物を降ろし始めた。ふたりの姉も父親も兄も動こうとはしない。

「ブタも収まらないかもしれないね」片方の姉が言った。

「いや、なかなかいいところだし、おまえたちみんな、ブタみたいに気に入るだろうさ」と父親は言った。「椅子から腰を上げて、母さんの荷下ろしを手伝え」

 ふたりの姉は牛のような大きな体に、安っぽいリボンをひらひらさせながら、荷馬車から降りた。ひとりはごちゃまぜの荷台から壊れたランタンを引っ張り出し、もうひとりはぼろぼろのほうきを引っ張り出す。父親は手綱を兄に渡すと、ぎこちない足さばきで車輪のてっぺんに上った。「荷物を全部降ろしたら、こいつらを厩に連れてって飼い葉を食わせろ」それからつぎの言葉を、初め少年はこれも兄に向かって言ったのかと思ったのだが、そうではなかった。「ついて来い」

「おれ?」少年は聞いた。

「そうだ」父親が答えた。「おまえだ」

「アブナー」母親が声をかけた。父親は立ち止まって振り返ると、もつれた灰色の不機嫌そうに寄せられた眉の下から、険しく冷たいまなざしを向けた。

「おれはな、明日っから八ヶ月間、おれの体も心も自分のものになるとでも思っていやがるようなやつと話をして来るんだ」

 ふたりはいま来た道を戻っていった。一週間前なら――いや、実際には昨晩より前ならば、少年も自分たちがどこへ向かっているのか聞いたかもしれなかったが、いまはそんな気にはなれなかった。前にも父親が彼を殴ったことはあったが、その理由をあとになって考えてみようとしたことはなかった。だが、平手打ちの音とそれに続く冷やかで怒りに満ちた声が、いまなお耳のうちで鳴り響き、谺しているような気がする。子供であることの不利をいやというほど味わわされたのだ。体の軽ささえ、生まれてからわずかの年数しか経っていない証拠のようで、それでいて世界から自由に飛び立つにはその体重でも邪魔で、かといって地に足をつけて、抵抗し、成り行きを変えようと試みるには重さが足りないように思えるのだった。

 じきに、カシやスギ、花の咲いた木々や灌木が見えてきた。家はそこにあるらしいのにまだ見えない。ふたりがスイカズラやナニワイバラの繁る生け垣に沿って歩いていくと、二本のレンガの柱のあいだに門が揺れている。そこでやっと大きくカーブを描いた私道の向こうに、初めて家が見えたのだった。その瞬間、少年は父親のことも、恐れも絶望も忘れてしまい、父親のことを思いだしたときでさえ(父親は立ち止まることもなかった)、恐れと絶望はよみがえってこなかった。

というのも、十二回の引っ越しも、これまでは貧しい田舎の小さな農場や畑や家の並ぶところばかりで、こんな屋敷は一度も見たことがなかったからだ。こいつは群庁舎ほどにも大きいじゃないか、とひそかに考えながら、心に平安と喜びが――幼すぎて、その気持ちをうまく言葉にあてはめることはできなかったが――わきあがるのを感じていた。ここの人たちなら父さんがいても安全だ。こんなに平和でお上品なところに住んでいるんだから、父さんだって手の出しようがないにちがいない。父さんなんてここの人たちにしてみたら、ぶんぶん飛び回るハチみたいなものだ。ちょっと刺して、しばらく痛い思いをさせるかもしれないけど、それぐらいがせいぜいなんだ――たとえ父さんが何かたくらんだとしても、ここの平和で上品な魔法のおかげで、納屋も厩も家畜小屋も、ちっぽけな火なんかじゃ燃やせないだろう……。

この平安も喜びも、こわばった黒い背中に目をやった瞬間に消えてしまった。足を引きずって歩く父の固く無慈悲な姿は、屋敷を前にしても少しもちっぽけには見えない。おそらくそれは、どこにいても格別大きく見えたわけでもない父の背が、荘重な円柱の立ち並ぶ屋敷を背にして、これまでにないほど超然として見えたからだろう。何かブリキの板を無造作に切りとったような感じ、うすっぺらで、たとえ横から日が差しても影ができそうもない感じだった。

その姿を眺めているうちに、父親がひたすらまっすぐに進んでいることに気がついた。父親のぎくしゃくした足は、さっき私道に立っていた馬が落としたばかりの糞のかたまりを、ほんの少し歩幅を変えれば避けられたであろうに、まともに踏みつけたのである。だがその出来事も、少年がうまく言葉にして考えることができないまま、この屋敷の魔法のなかを歩き続けるうちに、すみやかに消えていった。屋敷が自分のものだったらな、と思ったものの、気持ちのなかにはねたみも悲しみも、ましてや鉄のような黒い上着を着て前を行く父親の胸の内にある渇望や嫉妬のこもった怒りとも無縁だった。きっと父さんもそのうちそんな気持ちになるだろう。きっと父さんがそう抱かずにはおれないような思いさえ、この家は変えてしまうだろう。

 ふたりは玄関ポーチをつっきった。父親がぎくしゃくと歩きながら、時計が時を刻むように床板を踏んでいく音がする。体つきからは不釣り合いなほどの大きな音だったが、その体は白い扉を前にしても、少しも縮んだようには見えない。まるである種の邪悪さ、貪欲さのせいで、何を前にしても小さく見えることがないかのように。平たい、幅の広い黒い帽子、厚地の一張羅は、かつては黒だったが、いまではこすれたせいで、年老いたイエバエのような、緑色がかった光沢を帯びている。太すぎる袖が持ち上がり、袖口からかぎ爪のような曲がった手がのぞいた。即座に扉が開いたので、出てきた黒人は初めからずっと自分たちのことを見張っていたにちがいない、少年は思った。黒人は白髪交じりの髪の毛をきちんと刈り込み、麻の上着を着て自分の体で戸口をふさいでいる。

「足をきれいにしてください、白人のお方、なかへいらっしゃるんでしたら。旦那様はいまおいでなさりませんです」

「どけ、黒んぼ」父親は相も変わらず熱のない声でそう言うと、黒人の体ごと扉を荒々しく押しのけて、帽子も取らずに入っていった。少年は、父のぎくしゃくした足の跡が戸口の敷居についたのを見た。機械のように几帳面に動いていく足、実際の体重の二倍の重さを載せている(もしくは移動させている)ようにも見える足のあとから、淡い色の絨毯の上に足跡がついていく。黒人はふたりの背後から「ミス・ルーラ! ミス・ルーラ!」と叫んだ。

少年はそのとき、絨毯を敷いた階段のたおやかなカーブや、天井から下がるきらきらと輝くシャンデリア、金色の窓枠の鈍い輝きといったものから暖かな息吹が押し寄せてくるように感じていたのだが、小走りに近寄ってくる足音を聞き、女性が、いまだかつて見たこともないようなレディが、襟にレースをあしらったグレイのドレスで現れるのを見た。腰にエプロンを巻き、折り返した袖口の先、手についたケーキかビスケットの粉をタオルでぬぐいながら廊下をやってきて、父親の姿には目もくれず、淡い色の絨毯についた足跡に驚愕の表情を浮かべた。

「わしは」黒人は大声で言った。「わしはこの人に言いました……」

「お帰りになっていただけませんこと」女性は震える声で言った、「ド・スペイン少佐はおりません。お帰りください」

 少年の父親は、それまでにも一言も口をきいていなかった。そのときも無言だった。女性に目をやろうともしなかった。帽子をかぶったまま、ただ絨毯のまんなかにこわばった姿勢で立ち、もつれた灰色の眉をひくつかせながら、小石のような色の目で、ざっと値踏みするように家のなかを見回していた。それから緩慢なようすで向きを変えた。少年は、父親が良い方の脚を軸にくるりとまわるのを、こわばった足が弧を描き、長くかすれた跡を残すのを見守った。父親は跡など見もしなかった。絨毯に目を落とすことさえなかったのである。黒人は扉を押さえていた。ふたりの背後で扉が閉まり、ヒステリックな、何を言っているのかもよくわからない女のわめき声がそれにかぶさった。父親は階段の最上段で立ち止まると、へりにブーツをこすりつけて、汚れを落とした。門のところまで来たとき、ふたたび立ち止まった。こわばった足が根を下ろしたかのようにしばらくそこに立ったまま、屋敷を振り返ってながめた。「白くてきれいなもんじゃないか?」父親は言った。「ありゃ、汗だ。黒んぼの汗さ。だが、やつの気に入るほどには、白くねえ。だから白人の汗もそこに混ぜようとしてるんだな」

 二時間後、少年は家の裏手で薪を割り、家の中では母親と叔母と姉のふたり(いや、母さんと叔母さんだけで、姉さんたちはいない、と少年は思い直した。それだけ距離があっても、壁のせいですっかりくぐもってはいたが、姉たちの平板で大きな声からは、救いがたいほどの怠惰で無気力なようすが手に取るようにわかる)は、食事のためにかまどの用意をしていた。そのとき、蹄の音が聞こえてきて、麻の服を着た男が立派な栗毛の牝馬に乗ってやってくるのが見えた。それが誰なのか、あとから巻いた絨毯を前に置いた若い黒人が、太った馬車馬に乗ってついてくるのを見なくても、少年にはわかった。怒りに顔を紅潮させて、全速力のまま、家の角をまわってくる。そこには父と兄が傾いた椅子に腰かけていた。だが、少年が斧をふりおろすより早く、つぎの瞬間にはまた蹄の音が聞こえ、栗毛の牝馬がすでに速足になって庭から離れていくのが見えた。父親が大声で片方の姉の名を呼ぶと、台所のドアが開いて後ろ向きになった姉が出てきた。丸めた絨毯の一方を持ち上げて、ずるずると引きずってくる。もうひとりの姉がそのうしろからついてきた。

「あんた、持ってくれないんだったら、洗濯釜の用意をしてよ」最初に出てきた方が言った。

「サーティ!」あとの姉が少年に向かって怒鳴った。「あんたが洗濯釜の用意をしてよ!」

 父親が戸口に現れたが、古ぼけた戸を背に立つその姿は、さきほどの完全無欠な扉を背に立ったときと少しも変わらず、どちらからも超然としているように見える。母親の心配そうな顔が肩越しにのぞいた。

「やるんだ」父親が言った。「持ち上げろ」

ふたりの姉はいかにもやる気のなさそうにかがみこんだが、そのひょうしに、淡い色の服地が驚くほど広がって、不格好なリボンがひらひらした。

「もしあたしがわざわざフランスくんだりまで出かけて絨毯を買いでもしたら、人が踏んで歩くような場所には敷かないね」と最初に出てきた姉が言った。ふたりは絨毯を持ち上げた。

「アブナー」母親が言った。「あたしがやるよ」

「おまえは引っ込んで飯の支度をしてりゃいい」父親が言った。「こっちはおれが見てるから」

 午後いっぱい、少年は薪積み場からそのようすを眺めていた。洗濯釜のわきの地べたに平らに絨毯を広げて、ふたりの姉がその上にかがみこんで、重そうな体を大儀そうに動かしている。父親はふたりを見下ろす位置に立ち、声を荒げることもなく、怖い顔をして容赦なくふたりをこきつかっていた。彼らが使っている自家製の洗濯洗剤のきつい臭いを少年は嗅いだ。一度、母親がドアまでやってきて、一同を心配そうな顔つき、というよりは絶望そのもののような表情で、眺めているのも見た。父親が向きを変えたのを見て、少年は斧をふりおろしたが、眼の隅で父親が平べったい石を拾い上げ、それをためつすがめつしているのをとらえた。それから洗濯釜に戻っていこうとする父親に、今度は母親が大きな声で言った。「アブナー、アブナー。後生だからそんなことしないで。お願い、アブナー」

 やがて薪割りも終わった。日暮れ時だった。とうに夜鷹が鳴き始める時刻である。コーヒーの匂いが、昼食の残りの冷たい食事をすることになっている部屋からただよってきた。少年が家のなかに入ってみると、女たちはまだコーヒーを飲んでいる。おそらく炉に火が入っているからなのだろう。暖炉の前にはひろげた絨毯が、ふたつの椅子の背にわたしてあった。父親の足跡は消えていた。だが、足跡のあった場所には、いまは長い、雨雲のようなただれができていた。まるで小人が芝刈り機であちこち刈り取りでもしたかのように。

 一同が冷たい夕食を食べているあいだも、絨毯はそこにかかっていた。それから寝る時間になって、誰が命じることもなく、自分の希望を主張することもなく、それぞれにふたつの部屋に分かれていった。母親はベッドのひとつに、そこにはあとから父親も横になる。兄はもうひとつのベッドに寝て、彼と叔母さんとふたりの姉は床に藁ぶとんを敷いて寝るのだ。だが父親はまだ寝に来ない。深い眠りに落ちる前に、最後に少年が覚えていたのは、帽子をかぶって上着を着た父親のとげとげしい影が、絨毯にかがみこんでいる姿で、つぎに父が自分を見下ろしているのに気がつくまで、目を閉じるか閉じないかの間だったような気がした。背後の火はほとんど消えかかっている。足音で少年は目を覚ましたらしかった。「ラバを出すんだ」父親は言った。

 少年がラバを引いて戻ってくると、父親は真っ暗な戸口に、巻いた絨毯を肩に担いで立っていた。

「乗っていくんじゃないの?」

「いや。おまえの足を貸せ」

 少年は膝を曲げると、父親はそ膝の下に手を差し入れた。針金のような腕には驚くほどの力があって、少年の体はそのまま持ち上げられたかと思うと、そのままラバの裸の背に乗せられた(昔は鞍があったのだ。少年はいつ、どこでそれを見たのか覚えてはいなかったが)。父親は今度も雑作なく絨毯をふりあげると、少年の前に載せた。そうして星明かりの下、ふたりは午後来た道をふたたびたどっていった。スイカズラの匂いがむせかえるほどの埃っぽい道を抜け、門を通って、真っ暗な私道のトンネルをくぐり、灯りのついていない家に着いた。そこで少年がラバを停めると、腿にかかった絨毯のごわごわした感触が消えた。

「手伝おうか?」少年はささやいた。父親は何も言わなかったが、やがてまたこわばった足が、ひとけのない玄関ポーチの床板を踏む時計のように規則正しい足音が聞こえてきた。体重よりはるかに大きな音だ。父親は絨毯を肩から振り落とすのではなく、おおいかぶさるようにそっとおろしたが(少年には暗闇の中でもそのことがはっきりわかった)、壁や床にぶつかって、雷のような音がした。それからまた悠々とした大きな足音が響いた。家のなかに灯りがともり、少年はすわったまま、緊張しながら、規則的な呼吸、静かだがふだんよりいくぶん浅い呼吸をしていた。足音は少しも早まることはなく、ゆっくりと階段をおりてきて、やがて少年にも父親の姿が見えた。

「帰りは乗るんだろ?」少年はささやいた。「今度はふたり乗れるよ」
家のなかは別の場所が明るくなり、ゆらめいたかと思うと低い場所へ降りていく。あの男がいま階段をおりてるんだ、と少年は思った。ラバは少年を乗せたまま乗馬台のわきへさしかかった。そこで父親が後ろに飛び乗り、手綱を倍に延ばすと、ラバの首筋を叩いた。だがラバが速足になるまえに、堅くひきしまった腕が少年の体に回され、ごつごつと節くれ立った手が手綱をぐいっと締めたので、ラバは並足に戻った。

 明け初めた赤い陽がのびる庭で、ふたりは二頭のラバに鋤きをつけていた。栗毛の牝馬が今度は足音も響かせず、いきなり姿を現した。馬に乗った男は、カラーもつけず、帽子もかぶらず、身をがたがたと震わせながら、ちょうど屋敷にいた女のように震え声で話したが、馬上を一瞥した父親は、そのままかがんでくびきを結わえる作業に戻ったために、男はうつむいた背中に話しかける羽目になってしまった。

「おまえは絨毯を駄目にしたことをわかっているのか。ここにだって女手のひとつぐらいはあるだろうが」震えながら言葉を切るのを少年は見ていた。兄が厩の戸口にもたれ、噛みタバコをやりながらゆっくりまばたきしたが、実際はその目には何も映っていなかっただろう。

「百ドルもしたんだぞ。だがな、おまえに百ドルの金があるはずもなかろう。金輪際、持つことさえあるまい。だから、わしはおまえの収穫分から、トウモロコシを500キロ、取り立てることにする。契約書に書き加えておくから、今度代理人のところへ行ったときに署名をしておくんだ。そんなことでミセス・ド・スペインの気持ちは治まるまいが、まあ、おまえにとっちゃ、勉強にはなっただろう。人の屋敷に入ろうというときには、自分の足くらいちゃんと拭いておくというな」

 それだけ言うと、男は行ってしまった。少年が父親の方を見ると、黙ったまま目を上げようともせず、くびきの鉄球棒の位置を直していた。

「父さん」父親は彼を見た――何を考えているのかまるでわからない顔つきで、もつれた眉の下の灰色の目が冷たく光っている。少年はいきなり父親のそばへ駆け寄って、また急に止まった。

「父さんはできるだけのことをやったんだ!」彼は大声で言った。「もしあの人がちがうふうにやってほしかったんだったら、もうちょっとここにいて、どうやってやったらいいか教えてくれれば良かったんだ。あんなやつに500キロ渡す必要なんてないよ! やつには一粒だって受け取る権利はない! 収穫したら隠してしまえばいいよ。集めたら全部隠してしまえばいいんだ! おれが見張っててやるから……」

「おまえはおれの言うとおりに、ナタをまっすぐにして片づけたか?」

「まだです」

「じゃ、やっておけ」

 それは水曜日のことだった。その週の残りをずっと、少年は自分のできることを探して――ときにはそれを超えることまで――懸命に働いた。一度命令されれば、もう二度と言う必要がないほど、熱心に働いたのだ。このやり方を学んだのは母親からだったが、ひとつちがっていたのは、ともかく好きなことをやろうとした点だった。たとえば、薪割りをするなら、母親と叔母さんがやりくりして、どうにか金を貯めてクリスマスプレゼントに買ってくれた小ぶりの斧を使うようなことである。母親や叔母さんと一緒に(一日の午後あいだだけ、姉の一人も加わった)子豚と雌牛の囲いも作ったが、それは父親と地主の契約の一部に含まれていた。ある日の午後、父親が一頭のラバに乗ってどこかに行ったあと、少年は畑へ出た。

 いまはちょうど畝立て機を使っているところで、兄が鋤をまっすぐに起こしているあいだ、少年が手綱をあやつりながら、鋤を引くラバの横を歩いた。裸足のかかとは冷たくしめった肥沃な黒土をふみしめる。たぶんこれで片づいたんだ、と少年は思っていた。たった一枚の絨毯に、500キロも納めなきゃならないなんてひどい話だけど、それも父さんがこれからもう二度と、前やってたようなことをしなくなるんだったら、安いもんじゃないか。それは考えているというより夢を見ていたようなものだったから、兄は、ラバに気をつけろ、と厳しく注意しなければならなかった。――きっと、500キロの取り立てなんて無理だろう。たぶん、収穫して、計量して、精算したところでそのまま消えてしまうんだ。トウモロコシ、絨毯、火。恐怖も悲しみも、二頭の馬に別々の方向に引っ張られるみたいにして、そのまま永久にどこかへ行ってしまうんだ。

 土曜日になった。馬具をつけていた少年がラバの下から見上げると、黒い上着と帽子という出で立ちの父親がいた。

「そっちじゃない」父親が言う。「荷馬車の方だ」

二時間後、少年は父親と兄がいる御者席の後ろ、荷馬車に腰を下ろしていた。荷馬車は最後の角を曲がって、風雨にさらされてペンキのはげた店の前に出た。タバコや特許薬の破れたポスター、ロープでつながれた荷馬車や、軒下の鞍をつけた馬やロバが見える。少年は父親と兄に続いて、たわんだ階段を上っていった。今度もまた、彼ら三人を黙って見つめる人びとが両側に道を作る。厚板のテーブルに着席しているのは眼鏡をかけた人物だったが、それが治安判事であることは、誰から教えてもらわなくても少年にはわかってた。それから少年は、負けん気いっぱいの反抗的な目を、カラーをつけてスカーフ・タイを結んでいる例の男に向けた。相手を見たのは、生まれてこのかた、たった二度しかなく、それも馬に乗って速足で駆けているところだったが、いまは男の顔にも怒りの色はなかった。少年には知るよしもなかったが、小作人のひとりに訴えられるなどという予想外の事態に驚き、未だに信じがたい思いだったのである。少年は歩み出て、父親をかばうように前に立つと、判事に大声で訴えた。「父さんはやってません、燃やしたんじゃありません……」

「荷馬車に戻ってろ」父が言った。

「燃やしただって?」判事が尋ねた。「この絨毯は燃やされもしたのかね?」

「そんなことをわしらの誰が言いましたかね?」父親は言った。「荷馬車に戻ってろ」

だが少年は言うことを聞かず、以前と同じように、混み合った部屋の奥の方へ退いた。だが今度は腰を下ろす代わりに、ぎゅうぎゅう詰めのなかをじっと立っている人びとのあいだに自分の身をすべりこませて、聞こえてくる声に耳をすませた。

「それであんたは絨毯に与えた損害賠償としては、トウモロコシ500キロは高すぎると主張するんですな?」

「あの人はわしのところへ絨毯を持ってきて、足跡を洗って消してくれ、って言いました。だからわしは足跡を消して、あの人のところへ返したまでです」

「だが、戻したときの絨毯は、あんたが足跡をつける前の状態と同じだとはいえなかったんじゃなかったかね?」

 父親は返事をしなかった。ほぼ三十秒ほど、息を潜め、ひとことも聞き漏らすまいとして漏らすかすかなため息のほかには、何の音も聞こえなかった。

「証言拒否かね、ミスター・スノープス?」父親はこのときも何も言わなかった。「あんたに罪がないとは言えないようだ、ミスター・スノープス。わたしはド・スペイン少佐の絨毯の損傷に対して、あんたに責任があると認める。だが500キロのトウモロコシでの支払いは、あんたの情況では少し重すぎるようだ。ド・スペイン少佐はあの絨毯は百ドルだったと主張している。十月のトウモロコシはだいたい25キロあたり50セントが相場だろう。もしド・スペイン少佐が95ドルの損失を我慢できるなら、あんたは5ドルそれを払えばいい。あんたはまだ手に入れていない5ドルをそれに充てるのだ。わたしはあんたにド・スペイン少佐に対する損害賠償として、250キロのトウモロコシを契約に加算すること、それは収穫時の収穫のなかから支払われるべきことを命じる。本件はこれにて審議終了」

 裁判はほとんど時間を要しなかったので、まだ午前も早い時間だった。少年は、これから家へ帰って畑に出るんだろう、なにしろ遅れてるんだ、ほかの小作人とくらべてもずいぶん遅れを取ってるじゃないか、と考えていた。ところが父親は荷馬車のうしろを通り過ぎ、片手で兄に荷馬車であとをついてくるように合図すると、道を渡って向かいの鍛冶屋へ入っていった。少年は父親のあとについていき、前へまわりこんで話しかけた。風雨にさらされた帽子の下の、厳しいが落ち着いた顔に、こうささやいたのだった。

「あいつ、たぶん250キロなんて手に入らないよ。25キロだって。おれたち……」

そこで初めて父親はちらりと彼に目をやった。平穏な表情のまま、冷たい目の上の、灰色のもつれた眉を寄せると、楽しげな、ほとんど優しいとさえ言えるような声を出した。

「そう思うか? まあそうだな、とにかく10月が来るまで待ってみるとしよう」

 荷馬車の用事――輪留めを一、二本直し、車輪を締め直す――はたいして時間がかからなかったし、車輪直しは荷馬車を店の裏手のばねの作業場に引いていき、そこに立てかけておけばよかった。ラバはときどき水に鼻面をつっこみ、少年は手綱をゆるめて腰を下ろし、向こうの山や、すすけたトンネル型の車庫を眺めたりしていた。のんびりしたハンマーの音が響き、父親はひっくり返したひのきの丸太に腰をおろして、気楽なようすで会話を交わしており、少年が荷馬車を作業場から引き出して戸口へ停めても、まだそこに坐ったままだった。

「そいつらを日陰に連れてってつないでおけ」父親が言った。少年は言われた通りにしてから、また戻ってきた。父親と鍛冶屋と男がもうひとり、ドアのところにしゃがんで、収穫や家畜の話をしている。少年もアンモニア臭のただよう埃っぽい、蹄の削りくずや錆びた蹄鉄のなかにしゃがんで、父親が兄さえまだ生まれていないころの、まだ博労をやっていたころの話をいつまでものんびり続けるのを聞いていた。少年は店の反対側にかかっている、去年のサーカスのぼろぼろのポスターに描かれた真紅の馬や、チュールやタイツを身につけて、空中で停止したり回ったりしている軽業師、横目使いの化粧をした道化師の姿に心を奪われ、黙って見入っていたが、そこへ父親がやってきて、声をかけた。

「昼飯の時間だ」

 家に帰るのではなかった。表の塀の前に兄と並んでしゃがみ、店から出てきた父親が、紙袋からチーズのかたまりを取り出し、ポケットナイフで慎重かつ丁寧に三等分すると、その袋から今度はクラッカーを取り出したのを眺めていた。三人は軒下にしゃがんで、ゆっくりと物も言わずに食べた。それからまた店のなかに入っていくと、ブリキのひしゃくでバケツのスギ臭い、生のブナのにおいまでするぬるい水を飲んだ。それでもまだ家には帰らない。今度は馬の市へ出向いた。高い柵をめぐらし、柵に沿って人びとが立ったり坐ったりしているところへ、馬が引き出される。馬が歩いたり、速足をしたり、つぎには駆け足で通路を行ったり来たりするあいだに、人びとはのんびりと売り買いをしているのだった。やがて日が西に傾き始めても、彼ら――親子三人――は見て回りながら、話を聞いていた。兄は濁った目をして、やめられない噛み煙草をひっきりなしにかんでいたし、父親は、ときおり馬に論評を加えていた。とくにだれに話しかけていたわけではなかったのだが。

 三人が家に戻ったのは日が暮れてからだった。ランプの火で夕食をとり、それからドアの階段に腰を下ろして、少年はすっかり日の落ちた夜の光景をながめながら、ヨタカとカエルの声に耳を澄ました。すると母親の声がした。

「アブナー! 駄目よ、駄目。お願い、ああ、神様。アブナー!」

少年は立ち上がりざまに振り向くと、ドアの向こうが明るくなっているのに気がついた。テーブルに火のついたロウソクの入ったビンが置いてあり、まだ帽子と上着を取っていない父親の姿は、まるで何か悲惨で儀式的な乱暴を働くために入念に装ったかのようで、しかつめらしいが、どこか茶番じみてもいた。父親は、ランプの油つぼの灯油を、それがもともと入っていた灯油の五ガロン缶に戻しているところで、母親が腕を引っぱって止めようとしていたのだった。父親はランプをもう一方の手に持ち変えると、母親を後ろへなぎ払った。激しい動作ではなかったし、特に乱暴というわけでもなかったが、当たりが強かったのだろう、母親は壁まで吹っ飛ぶと、なんとか両手を壁についてバランスを取った。口を開いた母の顔には、声と同じ、絶望しきったような表情が浮かんでいる。そのとき、父親は少年が戸口に立っているのに気がついた。

「納屋へ行って荷馬車用の機械油の缶を持ってこい」

少年は動かなかった。それからやっと口を開いてこう言った。「何を……」彼はうめいた。「父さんは何を……」

「油を取ってくるんだ」父親は言った。「行け」

 少年は動き出した。家の外へ駆けだし、厩へ向かった。これは昔からの習慣、自分では選択の余地のない、古い血のなせる業だった。有無を言わせない力として受け継いだ血、はるか昔から(どこでそんな憤懣や残虐さや欲望を詰め込んだのか、いったい誰が知っていよう)彼の内に流れ込んできたのだ。おれはこのまま行くことだってできるんだ。彼は考えた。走って、走って、絶対に振り返らない。父さんの顔だって、もう二度と見ないことだってできるんだ。なのに、それができない。できない。錆びた缶が手の中にあった。家へ戻っていくあいだ、缶のなかでぴちゃぴちゃと音がしていた。なかへ入っていくと、隣の部屋から母の泣き声が聞こえたが、父親に缶を渡した。

「今度は黒んぼを使いにやらないんだね?」少年はうめいた。「前の時は黒んぼをやることだけはやったのに」

 今度は父親は少年を殴ったのではなかった。殴るのではなく手が伸びた。異常なまでに慎重に缶をテーブルに載せた手が、缶から離れるか離れないかという瞬間、目にもとまらぬほどの早さで彼に向かって突き出され、少年のシャツの背をつかむとぶら下げたのだった。その手が缶から離れたことに気がつく前に、少年はつま先立ちにさせられていた。息を殺した、氷のような凶暴さを秘めた顔がぐっと近づいて、冷たい、生気のない声が、彼の頭を越えて、兄に向かって、雌牛のようにひっきりなしに奇妙な仕草で口を横に動かしている兄に向かって言った。

「その缶を大きい方に移し替えて行くんだ。すぐに追いつく」

「そいつはベッドの柱にでも縛っておいたらいいんじゃないか」兄が言った。

「おれの言うとおりにするんだ」父が言った。シャツの首ねっこのところをつかまれたまま、少年の体は運ばれていった。固い骨張った手が肩胛骨のあいだに当たり、つま先がかろうじて床にふれるところでぶらさげられて、部屋を横切って隣の部屋に入ると、冷えた暖炉に向かってふたつの椅子に太い脚を広げて坐っているふたりの姉の横を抜け、叔母が母の肩をだきながらベッドにならんで腰をおろしているところまで連れて行かれた。

「こいつをつかまえておけ」父親が言った。叔母はぎくりとした。

「おまえじゃない」と父親が言った。「レニーの方だ。こいつをつかまえておくんだ。おまえにそれをやってもらおう」母は少年の手首を取った。「おまえだったらちゃんとつかまえておけるな。こいつが自由になるとどんなことをするかおまえだってわかるだろう。こいつはあっちへ行ってしまうんだ」父親は顎をつきだして、道の向こうを示した。「いっそおれが縛っておいた方がいいかな」

「わたしがつかまえておきます」母親はささやくように言った。

「ならそうしておけ」父親は行ってしまった。ぎくしゃくした足が床板を測るかのように、ずしん、ずしんと踏む音は小さくなっていった。

 少年はもがいた。母親は両手で押さえつけようとしたが、もがいてなんとかそれをふりほどこうとした。いつかは自分の方が強くなるのだろう。彼にはそれがわかっていた。だがそれまで待っているわけにはいかないのだ。「行かせてくれ!」彼は叫んだ。「母さんを殴ったりしたくないんだ」

「行かせておやりよ!」叔母が言った。「もしこの子が行かないんだったら、あたしが自分で行くよ! 神様が見ていらっしゃるんだから」

「あたしにはそんなことできないよ。わかっとくれ」母親が悲鳴をあげた。「サーティ! サーティ! おやめ、おやめ、おやめったら! リジー、手を貸してちょうだい!」

 少年は自由になった。叔母さんが捕まえようとしたが、もう遅かった。少年はすり抜けると駆けだし、それを追いかけようとした母親は、つまずいて膝をつき、近い方の姉を呼んだ。「あの子をつかまえて、ネット! つかまえとくれよ!」

 だがそれも遅かった。その姉(ふたりは同時に生まれた双子だったが、いまやふたりのどちらもが、家族の残り四人を合わせたよりも、生々しい肉や量感、重量といった印象を与えるのだった)は、椅子から立ち上がろうとすらせず、ただ振り返っただけだった。少年は、逃げだす瞬間、どんなことにも驚かされず、牛ほどの好奇心しか示さないこの若い女の体が、どれほど空間を満たしているか、驚きをもって眺めた。

部屋を抜け、家を出ると、薄もやの立ちこめる月明かりの道に出た。スイカズラの匂いがむせかえるようで、走る自分の足の下で、白っぽいリボンのような道がおそろしくゆっくりと伸びていく。やっと門に着くとそのままなかへ駆け込み、心臓も肺も早鐘を打っていたが足を緩めず、私道を抜け、灯りのついた屋敷の明るい玄関にきた。ノックもせず飛び込んだが、息があがって物も言えない。麻の上着を着た黒人の驚いた顔が目の前にある。いつ出てきたのかもわからなかった。

「ド・スペインさんを!」少年はあえぎながら叫んだ。「どこにいる?」

そのとき白人の男が廊下の先の白いドアから姿を現した。

「納屋が!」少年は叫んだ。「納屋が!」

「何だ?」白人の男は尋ねた。「納屋だって?」

「そうです!」少年が叫んだ。「火事になる!」

「こいつをつかまえるんだ」白人が怒鳴った。

 だが今度も遅かった。黒人が少年のシャツをつかんだが、洗いざらしてすりきれた袖はすっぽり裂けてしまい、手には袖だけが残った。少年はドアからまた飛び出すと、私道を駆け抜けた。実際には、白人に向かって叫んでいるときでさえ、足を止めていなかったのだ。

後ろで白人が怒鳴っていた。「馬だ! 馬を引いてこい!」

その声を聞いて、とっさに庭を横切って、塀を乗り越えて道に出ようかと思ったが、庭のようすもわからないし、蔓のからまる塀の高さも見当がつかなかいので、危険を冒すのはやめることにした。私道を走り続け、脈打つ血も呼吸もうなり声をあげていた。不意に自分が道に出たことが、あたりは見えなくてもわかった。耳も聞こえなかったが、音が届く前に、駆けてくる馬がすぐそばに迫っていることはわかった。それでもなお、自分の気も狂わんばかりの悲しみとさしせまる危機を、ほんの一瞬でも先に繰り延べるために、なんとかして羽を見つけようとでもするように、彼は道を変えようとはしなかった。だがぎりぎりの瞬間、道端の雑草の生い茂る溝に飛び込んで身を潜め、馬が雷のような音を立てて通り過ぎていくのを見送った。

直後、星明かりを背に、恐ろしいシルエットが浮かび上がった。静かな初夏の夜空に、馬とそれに乗った人の影が見えているところに、突然激しい炎が立ち上ったのだ。高々と渦を巻く、この世のものとも思えないような火炎が音もなく星空を染めた。少年はとびあがって道に戻ると、また走り出した。もはや手遅れであることはわかっていたが、銃の発砲される音が聞こえてきても、足を休めようとはしなかった。ほんの少しおいて、二発の銃声が聞こえた。自分が足を止めているとも気がつかないまま、立ち止まると、少年は叫んだ。

「父さん! 父さん!」自分でも気がつかないままに、ふたたび走り出し、よろめいて、何かにつまずいて転んでも、それでも走るのをやめなかった。立ち上がり際に振り返り、肩越しに燃え上がる火を見、もはや目には見えてはいない木々のあいだを、あえぎ、すすり泣きながら走っていった。「父さん! 父さん!」

 真夜中、少年は丘のてっぺんにすわっていた。いまが真夜中であることにも気がついていなかったし、自分がどこまで来たのかもわかっていなかった。だが、いまはもう向こうに炎は見えず、ともかくも自分が四日のあいだ家と呼んでいた場所には背を向けて、腰を下ろしていた。目の前に拡がるのは暗い森で、ふたたび呼吸がしっかりとしてきたら入っていこうと考えていた。寒さに身を縮め、闇の中でひっきりなしに身を震わせながら、すり切れたぼろぼろのシャツの残骸をまとった自分の体を抱きしめていた。悲しみとやるせなさは、もはや恐怖や恐れとは無縁の、ただの悲しみとやるせない気持ちそれだけだった。父さんは、おれの父さんは、と考えた。

「父さんは勇敢だったんだ!」不意に彼は声を出した。大きな声ではなかった、というより、ささやき声よりわずかに大きいだけだったが、声に出して言ったのだった。「父さんは勇敢だったんだ! 戦争に行ったんだから! サートリス大佐の騎兵隊にいたんだ」

父親が戦争に行ったのは、古きよきヨーロッパ的な意味での「私人」としてだった。軍服も着なければ、いかなる人にも、軍隊にも、軍旗にも権威を認めない、マールブルック(※18世紀ヨーロッパのわらべ歌に出てくる登場人物)のように、戦争に出かけたのだ。略奪品のため――つまりぶんどる相手は、敵であろうが味方であろうが、おかまいなしだったのだ。

 星座はゆっくりと動いた。夜明けも近い。ほどなく日が昇り、彼も飢えを感じるだろう。だが、それは明日がきたということなのだ。いまはただ寒いだけだったが、歩いていれば寒さもなくなるだろう。もう呼吸はずいぶん楽になっていたので、立ち上がって歩いていくことにした。どうやら自分は眠っていたらしい。明け方も近く、夜も終わりそうだ。ヨタカの鳴き声がそれを告げている。ヨタカはいまや足下の暗い森のあちらにもこちらにもいて、高く低く休むことなく鳴き続けていた。そのために、朝の鳥に鳴き声を譲る時間が近づいてきても、鳴き声の間隔は少しも開かないのだった。彼は立ち上がった。体が少しこわばっていたが、冷えと一緒に、歩いているうちにそれも回復するだろう。じきに日も昇る。彼は丘を降りて、暗い森のなかへ入っていった。銀色の鳥たちの鳴く澄んだ声のほうへ、ひっきりなしに呼ぶ声――速い、せきたてるように脈打つ、強く声を合わせて歌う心臓の鼓動のような声のほうへ。彼は振り返らなかった。





The End





父親と息子


アメリカ文学において、父と息子の物語とは基本的に、息子が父の圧政を乗り越える(あるいは乗り越えそこなう)話か、息子が父から叡智を伝授される話である。

(柴田元幸『アメリカ文学のレッスン』講談社現代新書)

フォークナーの短篇「納屋は燃える」は、そのどちらに当たるのだろう。ふつうに考えれば、邪悪な父親と、無力な母親、無気力で怠惰な兄や姉たちから離れ、少年が「大人になってゆく」物語である。そう考えると、典型的な前者、父を乗り越える物語であるようにも思える。

だが、この短篇には、はっきりした出来事はほとんど描かれないのだ。どうやら父親は、自分の受けた仕打ちに腹を立て(というか、自分からそうなるように仕向けているともいえるのだが)、復讐に納屋に放火してはそこを離れることを繰り返しているらしい。そうして一家はそんな父親と一緒に、農場を転々としながら小作人として働いているらしいのだが、ほんとうに父親が放火犯なのかどうかはよくわからない。子供であるサーティが、どこまで信頼できる証人かどうかわからないし、有島武郎の『カインの末裔』の仁右衛門のように、共同体の一員となろうとしないアブナーは、周囲の人びとから怒りを買い、濡れ衣をかけられているのかもしれないのだ。

この物語の中心となる出来事というのも、ひどく奇妙なものである。父親がド・スペイン少佐の高価な絨毯の上を、わざと馬糞にまみれにした靴で歩いたのだ。馬糞の中に足を突っ込んだのも、偶然だったのか、あるいは馬糞を見つけたところで計画を立てたのか、それとも黒人に止められたことに腹を立て、その腹いせとしてやったのか。

それだけでなく、絨毯の洗濯を命じられた父親は、娘たちにそれをやらせる一方、石で絨毯に傷をつけ、致命的な損傷を与えてしまう。父親は、貧しいがゆえに、自分より豊かな人びとをねたみ、屈辱を晴らすために、放火をするような人物なのか。それとも無軌道なふるまいを積み重ねる、ただの反社会的で幼稚な男なのか。

一方のサーティは、父親のしでかしたことに心を痛める少年として登場する。成長していくにつれ、社会規範を理解し、正義感も芽生えてくる。そのために、父親を愛する気持ちと引き裂かれ、最後には家族を背に、ひとり森に入っていく。春と夏の境、夜と朝の境、子供と大人の境、家族と家族の外の境、人間の住む場所と森の境、いくつもの境に立っていた少年は、新しい場所に入っていくのだ。

だが、一方でこう考えることもできる。父親の行為を想像して苦しむことは、同時に倫理を学ぶことでもある。不安を感じ、怯えることは、父を愛することでもある。父を止めようとすることは、父を危機に陥れることになり、もしかしたら父親はド・スペイン少佐に撃たれて死んだのかもしれない。そうして、家族から離れようとすることは、改めて自分の血を意識することになるのではあるまいか。

そう考えていくと、乗り越えることと、叡智を伝授されることは、実は同じことなのかもしれない。

初出Oct.10-23 2008 改訂Nov.04, 2008

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