初めて聞いた音楽は、オルゴールの“エリーゼのために”でした。
もちろん実際に覚えているわけではなく、両親から聞いて知ったことです。まだ赤ちゃんのころ、泣いていてもそのオルゴールを聞かせると泣きやみ、いつもそれはそれは真面目な顔になっていたのだそうです。真面目な顔の赤ん坊、って、どんなのでしょうね(笑)。ともかく、この子は聴いているんだな、と思った母親は、わたしが三歳になるのを待ちかねて、ピアノ教室に送りこんだのですが、後のことを思うと、それが良かったのかどうか……。
結局ピアノは正規に習ったのは小学校五年まで。あとはいくつかの楽器をさわってはみましたが、どれもたいしてやったわけではありません。
それでも、音楽を聴きながら、音楽と一緒に大きくなってきました。
すっかり好きになってしまった曲、自分とのあいだに特別な「結びつき」ができてしまった曲。そんな曲について、ときどき、無性に書きたくて、書いた文章です。特別な知見があるわけでもないし、上に書いた以上の経験があるわけでもないから、おかしなこともいっぱい書いてると思います。それでも、これを読んでくださった方が、何か聞きたくなったな、って思ってくだされば、これほどうれしいことはありません。
いまでもそのオルゴールのことは、よく覚えています。赤ちゃんのときの記憶ではなく、単にかなり大きくなるまで壊れなかった、というだけのことですが。
風車小屋を模した木のオルゴールは、風車を回すと“エリーゼのために”が流れるのでした。
何もない空間にあらわれるひとつひとつの音。それが連なって、悲しいような、懐かしいような気持ちをわたしのなかに生み出して、どこへともなく消えていく。
それが不思議で、音がしだいにゆっくりとなり、やがて止まってしまうと、また風車を回すのを繰り返したのでした。
わたしの音楽の原点は、そのオルゴールの音なのかもしれません。
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