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サキ コレクション


ここではイギリスの作家サキの短編を訳しています。
原文はいずれもShort Stories of Saki で読むことができます。

INDEX

vol.1:意外な結末……2005.5.29
「開いた窓」(The Open window)
「ハツカネズミ」(The Mouse)
「スレドニ・ヴァシター」(Sredni Vashtar)
 
vol.2:動物と人間と……2007.5.15
「話し上手」(The Story-teller)
「博愛主義者と幸せな猫」(The Philanthropist and the Cat)
「立ち往生した牡牛」(The Stalled Ox)
 
vol.3:お金と人間と……2008.1.12
「ラプロシュカの魂」(The Soul of Laploshka)
「マルメロの木」(The Quince Tree)
「毛皮」(Fur)
 
 
vol.4:闘争と人間と……2008.6.5
「シャルツ=メッテルクルーメ式教授法」
(The Schartz-Metterklume Method)
「平和的なおもちゃ」(The Toys of Peace)
「ビザンチン風オムレツ」(The Byzantine Omelete)
 
 
vol.5:狼たち……2008.9.25
「侵入者たち」(The Interlopers)
「セルノグラツの狼」(The Wolves of Cernogratz)
「物置部屋」(The Lumber Room)
 
 
vol.6:舌先三寸……2009.2.22
「メスオオカミ」(The She-Wolf)
「ショック作戦」(Shock Tactics)
「こよみ」(The Almanac)
 
 
vol.7:隣の不思議……2010.3.16
「トバモリー」(Tobermory)
「モウズル・バートンの平和」(The Peace of Mouslebarton)
「七番目のひよこ」(The Seventh Pullet)
 
 
vol8.:ああ、勘違い……2011.6.27
「七つのクリーム入れ」(The Seven Cream Jugs)
「運命の猟犬」(The Hounds of Fate)
「返品可能で販売中」(On Approval)
 



サキについて


サキは20世紀初頭に活躍したイギリスの作家で本名はヘクター・ヒュー・マンロー。ペンネームのサキ(Saki)は、11世紀ペルシャの詩人オマル・ハイヤームの詩『ルバイヤート』に出てくる酒姫(サーキィ)にちなんでいる。

サキが生まれたのは1870年、イギリスの植民地ビルマでだった。
スコットランド系の父親は当地で警官をしており、この背景は同じようにビルマで生を受け、同じように父親が警官であったジョージ・オーウェルと、のちの経歴も含めて、きわめて重なり合う部分が大きい(※オーウェルについては「象を撃つ」でもふれているので詳細はそちらを参照されたい)。だが、オーウェルが生まれたのは1903年、サキが生まれた時代との三十年の隔たりは、植民地の状況もそれを取り巻く情勢も、ずいぶん異なっていたようで、同じような背景を持ちながら、作家としてはまったく異なる方向に進んでいったのも、こうした時代的状況のちがいと無縁ではないだろう。

のちにサキとなるヘクターは、まだ乳児の頃にイギリスに戻るが、二歳の時母親がイギリスの田舎道で逃げ出した雌牛に殺される、という過酷な経験をする。その後兄や姉と一緒に伯母のもとに引き取られ、そこで成長した。サキの短編にはしばしば厳格な「伯母さん」が登場するが、この「伯母さん」には少なからず実在の伯母が投影されていると言われている。

やがてヘクター少年はベッドフォード・グラマースクール(グラマースクールとは、中世からある特権階級のための中等教育機関で、後にパブリック・スクールと枝分かれしていくもの)を終えたあと、1893年、ビルマ警察に勤務するようになる。三年間、そこで働いた後、健康を害して退職し、帰国。ジャーナリストとして活動を始める。

1900年、最初の書物を出版、ギボンの『ローマ帝国衰亡史』をモデルとした『ロシア帝国の台頭』を出版するが、黙殺される。続いて1902年、初めての短編集を出版し「サキ」というペンネームを使い始める。以降1908年まで、ジャーナリストとして活動しつつ、短編を中心に創作を続け、文名が高まってからは創作に専念、数多くの短篇集のほか、長篇小説や戯曲も発表した。だが、今日、サキの名を残しているのは、なによりもその切れ味鋭い短編である。

サキの短編は意外な結末という一点に向かって、すべてが収束していくという構造を持っている。モーパッサンを初め、O.ヘンリーらと同じように、「あっと驚く結末」こそすべて、という系列に属する作家で、とくに同時代に活躍したO.ヘンリーとはよく比較される。

『最後の一葉』や『賢者の贈り物』のように、O.ヘンリーの短編の多くが、人のこころの優しさや思い遣りを根底に置いており、ときにそれが誤解を生んだり齟齬を生じて皮肉な結果をもたらしたりして、決してハッピーエンドばかりではないのだが、おかしさと同時に独特のものがなしさを感じさせるのに対し、サキが目を向けるのは、人間のおろかしさや欺瞞のほうである。最初の長編小説"The Unbearable Bassington" のとびらには「この物語にはモラルはない。なにほどかの悪を指摘しているにしても、この物語は、それに対する療法を与えるものではない」と書かれている(引用は新潮文庫版『サキ短編集』巻末解説による)が、まさにこれこそサキの短編にも通底している世界観であるといえよう。

1911年第一次世界大戦勃発、サキことマンローは41歳になっていたが、志願し、一兵卒として参戦し、1916年11月14日、フランスにて狙撃兵の銃弾に倒れ、短い生涯を終える。最期のことばは「このいまいましいタバコの火を消してくれ」だったという。

ホモセクシュアル、かつ反ユダヤ主義者で保守主義者、ただし彼自身はあまり人生を重要なものとはとらえていなかったという。批評家のV.S.プリチェットはサキの作品をこう評している。「サキは書くことを目の敵にしていた。世の中には死ぬほどうんざりしていたし、その笑い声は、恐怖のためにあげた悲鳴が短く、ひとつかふたつ、連なったものに過ぎなかった」

この道を歩んで行った人たちは、ねえ酒姫(サーキィ)
もうあの誇らしい地のふところに臥したよ。
酒をのんで、おれの言うことをききたまえ――
あの人たちの言ったことはただの風だよ。

オマル・ハイヤーム『ルバイヤート』小川亮訳 岩波文庫




初出 May 15 2007
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